vol.2 堀江和真「こんにゃく」

堀江和真は絵画というメディアについて思考を巡らせ、その洞察のもとに作品を制作します(立体作品もその多くが絵画に対する思考の上に制作されています)。
思考と考察の跡は、作品の表面にも多分に表れています。たとえば、一見親しみやすい、子どものらくがきを思わせるキッチュな図像が描かれた絵画の画面上にも、その作品の制作にあたった日時がメモされていたりします。出展作品の例では、《3》というタイトルが付けられた、カエルのようなキャラクターが三体並んで描かれた作品の画面下部に見られる、「2020 12.8 7:36-7:47」というような記述がそれにあたります。これはその作品が描かれた日にちと時間を示したものです。
なぜ画面上にこのような情報が挿入されているのか――複数のシリーズで見られるこの試みは、絵画の平面上にメタな時間性を加え、奥行きを与える実践と解釈できます。鑑賞者の目を、なにが描かれているかという画面内への関心に留まらせず、それが制作されるまでの過程、描画行為とそれに費やされた時間という、作品の外部にまで向けさせるのです。絵画も単に、人が、生活の中で時間をつくって手を入れ、完成に近づけていく「モノ」なのだと、その即物性を示しているかのようです。
また本展では、《サンドイッチマンスタイルの展示方法》という題の、絵画作品と立体造形物を組み合わせた新作が出展されています。作家自身のスキャンデータから出力された等身大の人体模型に、二点の絵画が提げられた作品です。掛けられた絵画は、身体を挟むように、前面と背面に配置されています。
この作品では、絵画が作家の身体の模型と結びつけられ展示されることで、より明示的に、絵画が身体的な描画行為の集積として現前するのだという即物的な一面が強調されています。体の大きさや腕の長さといった身体の有限性が、絵画の大きさや筆触の方向といった造形要素をも規定しているのだ、という事実にも気づかせるでしょう。さらに言えば、3Dプリンターによって出力された人体模型もまた、積層によって形づくられた痕跡を表面にありありと残し、本作が時間/行為の堆積として成立していることを示唆しています。
また、人体型の造形物は、作家と作品の結びつきを想起させる装置としてのみ機能するのでなく、作家と作品とその受容者(鑑賞者)との関係にも言及しているようです。サンドイッチマンと呼ばれる、宣伝用の看板を取り付けられた人間広告塔を模した佇まいは、絵画の持つ「額装され壁に掛けられることで立派に見える」という身も蓋もない権威性を無化していますし、作品受容とコマーシャリズム、労働者としての作家像、アートの産業構造についての思考を誘うフックにもなっています。
堀江の作品は、その表層的な可愛らしさで、かようにも重層的な造りを包み込んでいるのです。
文・上久保直紀
作家情報
堀江 和真
HORIE Kazuma
1981年生まれ、相模原市在住。
絵画とその周辺の問題をテーマに制作。平面作品のみならず、立体作品もつくる。廃材やマグネットなどをつかったユニークな作品を得意とする。東京、神奈川を中心に精力的に作品を発表。相模原で子ども絵画造形教室アトリエくまを主催。
本展に寄せて

アートと向き合うとき、あなたはどんなことを感じますか?
なんだか、よくわからないことを考えている人が哲学的なものを盛り込んでヘンテコなものをつくってると感じる人もいるかもしれない。
こんにゃくについて何もしらないとしたら、どんなことを感じるか想像してみてください。
ぐにゃりとしてて、どうやってつくられていて、何なのか、わからない。食べ物ともわからないという人もいるかもしれない。
アートとこんにゃくって鑑賞体験という意味では似ているのかなと少し思います。意味がわからないという意味において……。
でも、日本人なら大抵、こんにゃくは食べ物だと知っている、原料はこんにゃく芋で、さまざまな調理方法、味付けによって、楽しむことができることを、わかっている。
アートもおんなじ、ちょっと興味を持ってくれれば、さまざまな作品を気軽に楽しむことができる。みてわかることだけ楽しんでも良いし、どんなことを考えてつくられているのか、聞いたり調べてみてもいい。最初の感想がグニャリとしていて、とりとめのないものでも、あとで意外と面白く感じることがある。
こんにゃくのいないおでんが、ちょっと物足りないように、アートのない人生もちょっと寂しい。みなさんにもそんなふうに思ってもらえたらいいな。
堀江和真
出展情報
01 児童養護施設杉並学園
会期 | 2022年3月20日(日) |
会場 | 児童養護施設杉並学園 |
アート・トラック/関連作品展示/ワークショップ |
02 岸根公園
会期 | 2022年3月27日(日)11:00-16:00 |
会場 | 岸根公園(横浜市港北区岸根町725) |
アート・トラック/関連作品展示 |
03 国指定名勝 三渓園
会期 | 2022年4月17日(日)10:00-16:30 |
会場 | 国指定名勝 三渓園(神奈川県横浜市中区本牧三之谷58-1) |
アート・トラック/関連作品展示/ワークショップ |
制作協力
有限会社大久保工芸
